「…ない。」


 家を出てからすでに1時間ほどは経過しただろうか。近くのショッピングモールまで出かけたはいいものの何もめぼしい物が見つからず。諦めた帰り際に目に付いたキーケース、ないよりマシだと一応買ってみたものの、流石にこれでは間に合わせた感がありすぎる。まあ家を出た時点で、あんまり見つける自信なかったけど。

「正直に謝ろ…」


 やっぱり大事な人にプレゼントするものはこだわりたい。それを小1時間で探そうなんて発想が間違いだ。
 それでもせめてキレイにラッピングしてもらった包みを大事に鞄にしまいこんで家路につく。



 木崎に送ったメールの返事は帰ってこないままだ。

  





×



「遅い!!!」

 家の玄関を開ければ、仁王立ちの楓さんに出迎えられた。どうやら案の定、誕生日会のスタートに間に合わなかったらしい。


「ご、ごめんなさいっ」
「もうっ、早く手洗っておいで。」


 ぷりぷりと怒りながらも優しさの籠もった言葉を置いて、リビングに戻っていく楓さん。その背中を見ながら、ほんとにお母さんみたいだなぁと思った。いつもそうだ、楓さんは俺たちに甘い。そんな彼を補うように大樹さんはとことん厳しい。バランスのとれた夫婦だと思う。
 しかし、お母さんみたいという思考はすぐに打ち消した。自分の親に"みたい"だなんて思うのは失礼だ。


 俺がリビングに入ったとき、そこは既に宴会状態だった。テーブルいっぱいに並べられた料理を頬張る大樹さんは俺に目もくれず、ビールに手を伸ばす。すでに数本のビールの空き缶が転がっていて、待ちきれなかったんだろうなぁと苦笑する。その横で本日の主役である千秋が困ったように笑っている。


「ほら、早く座って座って」


 楓さんに促されて、どぎまぎしながら席に着く。ちらりと目線を上げれば千秋とバッチリ目があった。あー!遅れた理由を聞かれたらどうしよう…!
 すると、俺の考えをするりと見透かしたかのように、千秋が意地の悪い笑みを浮かべた。

「遅かったね、何処いってたの?」



 この、確信犯め!
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